Enjoy’s Tシャツは、Tシャツの楽しさ、楽しみ方、面白さについて、ざっくばらんにお話を伺ってまいります。第1回の今回は、長年女性誌「オズマガジン」の編集長を務めた古川誠さんにお話を伺いました。
そのTシャツ愛は、好きが高じて自らのTシャツブランドを立ち上げるほどでした。
Tシャツに興味を持ったきっかけ
望月
今日はよろしくお願いいたします。
古川
よろしくお願いします。よくぞ呼んでくださいました。僕はTシャツを500枚くらい持っているんですよ。正真正銘のマニアです(笑)。スニーカーとTシャツは語れます。
望月
そもそものTシャツを集めるようになったきっかけは何だったんですか?
古川
僕、ロックが好きなんです。だからロックTから入ってるんですよね。
望月
それは何かロックバンドのTシャツだったんですか?
古川
今もボブ・ディランのTシャツを着ているんですけど。最初はヒステリックグラマーが、デヴィッド・ボウイやボブ・ディラン、 ローリングストーンズなど、僕が好きなバンドやアーティストのTシャツを、毎シーズン作っているのをコレクションしていて。SUPREMEもアーティストのTシャツを作っていましたね。それが好きで、そのTシャツを集めるところから始まったんです。
とにかくTシャツの、フロントとバックという2面しかない場所に何を表現するか、この狭いフィールドに表現の可能性がつまっているなと思って。
望月
なるほど。
古川
僕の中では「Tシャツ is メディア」というのが強くある。編集者という職業は、毎日スーツを着なくても働ける。だから僕はTシャツを350日ぐらい着てますね。望月さんと会うときも、いつも僕ってTシャツを着ていますよね?
望月
そのイメージはあります。
古川
だから、みんなにそのイメージを持たれていると思います。350日Tシャツを着ていると、Tシャツ一枚で会話が始まるようなものってあるから、そういうところもおもしろい。
望月
たしかに古川さんはTシャツのイメージが強いですね。
古川
Tシャツは何枚あっても買ってしまいます。隙を見せるとTシャツを買っている(笑)。もはや得意技ですね。Tシャツを買うこと=特技(笑)。
望月
取材なんかで古川さんは、いろんなところに行かれるじゃないですか。そういうところに行ったら、絶対買おうって感じになりますか?
古川
Tシャツって思い出にもなるから地方でも買うし、はじめて行く町の古着屋なんて大好き。ノベルティとかの安っぽいTシャツも楽しい。美術館や、行く先々でも買ってる。だから「これはどこどこで買ったな」と思い出とセットのTシャツがけっこうありますね。
Tシャツの保管方法
望月
500枚もあったら保管方法ってどうされてるんですか?
古川
ワイヤーラックに畳んで収納していて、もはや古着屋のTシャツ棚みたいになってます。
望月
すごいですね。Tシャツもスニーカーも保管場所が大変ですね。
古川
いま5畳ぐらいの部屋で話しているんですけど、僕の座っているスペース以外は、スニーカーとTシャツしかない。とにかく本当にTシャツだらけです。
望月
Tシャツの色は黒が多いんですか?
古川
結果的に黒いTシャツが多いですね。SENTIMENTAL PUNKSっていうTシャツブランドをつくったんですけど、それも黒いTシャツ屋さんなんです。黒いTシャツがなぜ多いかと言うと、白いTシャツだと、何度も着ていると首周りが茶色くなるじゃないですか。
望月
劣化して黄ばむってことですね。
古川
はい。ある意味でそれは絶対に仕方のないことなんですけど、長く5〜10年着るとなると、ヴィンテージな着古した感じが、黒だと味になるんですけど、白はどうしても劣化に見えてしまうんです。もちろん白いTシャツも大好きなんですけど、結果的に何色が多いかとなると、黒が圧倒的に多いですね。
望月
そういう意味でコレクションとして集める場合は、たとえば観賞用・聴く用・見る用みたいなものがあるじゃないですか。そういうことはTシャツではあるんですか?
古川
スニーカーだったら実はそれをけっこうやっているんですよね。Tシャツに関してだと、定番を買い続けることはありますけど、それ以外はあまりないですね。
望月
なるほど。そうなんですね。たまに額縁に入れている系の人がいるじゃないですか。
古川
そういうレアなTシャツも中にはあります。SUPREMEのケイトモスのTシャツは、いまオークションで新品を買ったら30万円くらいするんですよ。バスキアやダミアン・ハーストといったアート系も高い。昔のTシャツのレアものは高くて、でもやっぱりイケてるんですよ。
そういうのはタイミングがよくないと買えないんですよね。だから昔はTシャツの発売日にSUPREMEに並んだりしていましたよ。
Tシャツは記憶媒体であり、動くメディア
古川
あとTシャツって会話になるじゃないですか。それがTシャツのイケてるところで、すぐに買えて、気楽に着れる。1枚で気分上げてくれることがけっこうある。それがTシャツに惹かれる理由ですね。
望月
たとえば家で手軽にTシャツづくりが出来れば、3歳のころのTシャツだよって保管をしておけばメディアじゃないですけど、記憶媒体としてもTシャツはなると思って。
古川
確かに記憶媒体って良い言葉ですね。記憶媒体としてもTシャツは向いてるかもしれないですね。
望月
しかも着れるじゃないですか。
古川
着たときには、記憶が呼び起こされて、いろいろな気分にもなれる。
望月
メディアって基本的に自走で動かないし、本や雑誌だと本屋に積まれていたりはしますけど、Tシャツだったら人間が動けば、着ていたら動くわけで。
古川
そうなんですよ。その面白さはスゴくありますよね。体にくっついてるから、メディアメッセージを着て歩けるんですよね。自分の「好き」を表明しながら歩けることがある。それで相手側の好きなものや、ユーモアなんかも、Tシャツ1枚で伝わったりするじゃないですか。それがTシャツの面白いところだと思うんです。
望月
そうですよね。Tシャツはメッセージ性が伝わりやすいですね。
古川
そうですね。人のTシャツってすれ違ったときに絶対見えるじゃないですか。それがメディアとしては面白いですよね。それを感じます。それを自分自身もやってみたいなと思って、Tシャツブランドを作ったのかもしれない。
望月
サッカー選手もたとえばゴールを決めた後に、ユニフォームの下のシャツにメッセージを書いているじゃないですか。
古川
あれもそうですよね(笑)。メッセージ。
望月
意外と言われてみれば、そういう気がしますよね。
古川
例えば僕はずっと本の編集をやってきたわけで、本は本屋さんに行かないとなかなか見てもらえないけど、Tシャツは自分で身につけられる。
望月
ある意味で動くメディアですね。
古川
そうそう、動くメディア。でも、スニーカーはメディアじゃないんですよ。スニーカーは道具であり、コレクターズアイテムなんですけど、Tシャツはメディアなんです。その流れだと僕は無地のTシャツももちろん着るんですけど、それは別物として捉えていますね。
望月
そうやってTシャツを着るのも使い分けてるんですね。
古川
そう、自分の中ではオフィシャルな場所に行くときには、プリントTシャツは着ないようにしています。そういうときにはチャンピオンの5,000円のポケットTシャツ。めちゃくちゃ丈夫で、試着をしなくても自分がMサイズってことが分かってる。どこでも売ってるし、しかも首が伸びないから長く着られ、着たときのピタッとした感じもすごくある。そういう意味でそれは自分のスタンダードで、言うなればスーツに変わる制服みたいな感じです。もう人生で50枚は買っています。
望月
確かに古川さんは、今の「Tシャツはメディアだ」という感覚があるから、オフィシャルな場ではメッセージ性をなるべく消したいのは、職業柄なんでしょうね。
古川
そうかもしれないですね。礼儀でもあるし、なるべく匿名性を持ちたい。僕ら編集者は裏方で、人の話を聞き出す側だから、自分が主張するよりもあくまで人の話を聞くことが仕事で。カメラマンが黒い服を着るような感じですかね。
望月
でも、さすがに500枚も持っているとは思ってませんでした(笑)。あとは逆にザッカーバーグ氏のようにずっと同じものを着る人もいますよね。
古川
そうですよね。同じものを買い続けている人ですね。その気持ちもよくわかります。僕は春・夏はほぼ毎日Tシャツを着てる。で、寒い日はその上にカーディガンを着る(笑)。そういう意味でTシャツって幅だと、僕にもザッカーバーグ氏的なところはあるかもしれないですね(笑)。
Tシャツには幅広さがある。
古川
Tシャツって、ふざけたユーモアも含めていろいろあるじゃないですか。街で人とすれ違ったときに、たまにスゴいTシャツを着ている人がいますよね? そういうところも許されるのが、Tシャツのいいところじゃないですか。
望月
そうなんですよね。メッセージ性だけじゃないアイスブレイクの1つみたいな。
古川
アイスブレイク的な要素もありますよね。それもすごく素敵で。あとTシャツはお土産にもなるんですよね。僕は海外に行くと海外のスケートショップのTシャツをよく買うんです。スケートショップって、だいたいオリジナルでTシャツを作っていて。結果的にそれがお土産になったりもしている。それも旅の楽しみだし、気軽さですよね。とにかく10ドルとか15ドルでTシャツを山ほど買って帰るのが楽しいんですよ。
そういう多様性ですよね。SUPREMEのケイトモスは30万円だったりする一方で、ワゴンセールで5ドルのTシャツもいっぱいある。そういうのがすごく面白い。
望月
幅が良いですね。
古川
本来が安くて気軽なものだから、あんまり人とTシャツが被ることってないじゃないですか。
望月
そうですね。Tシャツはないですね。シャツが被ることはたまにありますけど。
Tシャツは実用的なメディア
望月
いま話を聞いている中で、確かにメディアやフィールドって言葉は、前に出す要素もあると感じますね。
古川
それはすごく感じます。本というメディアをずっと作ってきたから、長くにわたってデザインや写真を使い、文字を使っていっぱい説明して、情報をたくさん載せる世界にどっぷり浸っていたので。Tシャツの表一面/裏一面ってこの潔さにスゴく面白みを感じます。
望月
その感じは、編集人生が深まるにつれて余計に感じるところなんですか?
古川
そうなんです。気づいたのは最近です。Tシャツがメディアってことに気づいたの。たくさんのことを自分が表現できるようになって、たくさん述べたり、たくさん語ることのToo Much感が出てきて。もちろんたくさん書かなくちゃわからないこともいっぱいあるんだけど、その一言でコミュニケーションを取るみたいなところ、その究極にシンプルで、いろいろ削ぎ落とされた感覚がすごく面白いと思って。だから本の次はTシャツを作ってみたいなって。
望月
なるほど。
古川
その潔さというか簡潔性みたいなものがすごく自分の性に合っていたなぁと思います。
望月
面白いですね。仕事との反比例みたいで。
古川
反比例は反比例かもしれないですね。でも小説書いて、すごくたくさん言葉を尽くすコミュニケーションも大好きなんです。結局、僕は「言葉」が好きなんだと思います。そういうものに囲まれていたい。Tシャツにも結局言葉をのせている。だから今は自分の好きなTシャツを集めて、売ったり見せたりするショップをやりたいんですよ。
Tシャツはやっぱり着れるところがいいですよね。実用的なのがなんだか本当に今の気分なんです。
望月
たしかに。こんな実用的なメディアは無いですね。
<プロフィール>
古川誠
元オズマガジン編集長であり、小説家として「りんどう珈琲」(クルミド出版)「ハイツひなげし」(センジュ出版)と、2冊の小説を発売。2020年にローンチしたTシャツブランドSENTIMENTAL PUNKS主宰。本人の日常を綴ったメールマガジン(無料)は毎週金曜日配信。購読希望者はFBのメッセージまで。